中高層建築物等の建築に関する一般的な考え方
建築紛争についての一般論
- 中高層建築物やワンルームマンションの建築に伴い近隣の住民の方々と建築主との間で紛争が生じることがあります。
- 建築行為については、建築基準法をはじめ、様々な建築に関する法令等により規制を受けていますが、いずれにおいても、近隣の住民の方々の同意を義務づけた規定はありませんので、建築計画が建築に関する法令等の要件を満たしていれば、市の建築主事又は民間の指定確認検査機関は、建築確認をしなければならず、結果として、近隣の住民の方々の同意がなくても、法的には、建築主は建築をすることが可能ということになります。
- 一方、近隣の住民の方々にとっては、適法な建物であっても、高層の建物やワンルームマンションが建築されることについて、様々な点で不安や不満が生じることがあります。
- 建築関係法令(公法上の規制)に適合する建築計画についての、近隣の住民の方々と建築主との利害の衝突の結果生じる「建築紛争」(例えば、日照や通風の阻害、プライバシーの侵害、工事中の騒音・振動、受信障害等の建築に伴う問題)は、いわば、土地を有効に利用して適法に建物を建築する建築主の立場(権利)と、快適な生活環境を守りたいという近隣の住民の方々の立場(権利)の衝突といえます。このような問題は、私法(民法)上の問題として扱われ、建築確認において審査する範囲ではありません。
- したがって、これらの問題は、民事上の紛争として、当事者間の話合いによって解決することが原則となります。
- 近隣の住民の方々としては、まず、建築主側から建築計画、工事施工計画、それらによって受ける影響について説明を聞きます。そして、質問や要望があるときは、それらを整理して具体的な要望や質問の内容にまとめて建築主側に伝えた上で、建築主側と近隣住民等との間で話し合うことで解決を図ることになります。
- 紛争を解決するためには、お互いが一方的に自己の権利のみを主張するのではなく、相手方の主張も聞き、お互いの立場を尊重し、お互いに譲り合った上で妥協点を見出す努力をすることが重要です。
以下で対策例、対応方法の例等として記載している内容は、建築主に対して法令上義務付けのある事項ではなく、あくまで建築主の自主的な任意の行為として考えられることを例示したものです。
近隣の同意について
- 建築行為については、建築基準法をはじめ、様々な建築に関する法令等により規制を受けていますが、いずれにおいても、近隣の住民の方々の同意を義務づけた規定はありませんので、建築計画が建築に関する法令等の要件を満たしていれば、市の建築主事又は民間の指定確認検査機関は、建築確認をしなければならず、結果として、近隣の住民の方々の同意がなくても、法的には、建築主は建築をすることが可能ということになります。
- ただ、近隣の住民の方々にとっては、適法な建物であっても、高層の建物やワンルームマンションが建築されることについて、様々な点で不安や不満が生じることがあります。
- 建築関係法令(公法上の規制)に適合する建築計画についての、近隣の住民の方々と建築主との利害の衝突の結果生じる「建築紛争」(例えば、日照や通風の阻害、プライバシーの侵害、工事中の騒音・振動、受信障害等の建築に伴う問題)は、いわば、土地を有効に利用して適法に建物を建築する建築主の立場(権利)と、快適な生活環境を守りたいという近隣の住民の方々の立場(権利)の衝突といえます。このような問題は、私法(民法)上の問題として扱われ、建築確認において審査する範囲ではありません。
- したがって、これらの問題は、民事上の紛争として、当事者間の話合いによって解決することが基本となります。
- 紛争を解決するためには、お互いの立場を尊重し、互譲の精神をもって話し合うことが最も大切です。
- 近隣の住民の方々と建築主とが、互いに自己の権利や意見だけを主張される結果、話合いによる解決ができなくなる場合もあり、こうした場合、最終的には民事裁判等、司法の場で解決することとなります。
話合いのポイント
日照阻害について
- 中高層建築物が建築されることで新たに生じる日影によって、近隣の土地や建物がそれまでと同じ程度の日差し(日照)を得ることができなくなることについて、日照阻害が問題にされることがあります。
- いわゆる「日照権」については、法律上では明文化されていません。ただ、民事訴訟等では、日照阻害の程度(失われる日照の量)が受忍限度の範囲内(客観的に見て社会生活を営む上でお互いに我慢せざるを得ないと考えられる範囲内)を著しく超えていると認められる場合に保護されることがあります。
- 日照阻害が受忍限度の範囲内を超えているかどうかの判断は、個々の事案により異なります。
- 判例では、一般に、建築基準法の日影規制(→補足)への適合性、日照阻害の程度、地域性、損害回避の可能性等を考慮して判断されているようです。
(補足) 建築基準法には、「日照権」に関する規定はありませんが、「日影規制(日影による高さの制限)」を設け、その建築物が周囲に生じさせる日影を一定時間以内に抑えるような制限を設けています。
- 近隣住民等の側としては、まず、建築主側に日影図(建物が完成した場合に生じる日影の位置や大きさを一定の時間帯ごとに図面で表したもの)の提出を求め、計画されている建物により、自分の家が1日のうち、どのくらいの時間日影になるかを知ることが大切です。
- その後、日照阻害の実情を建築主側に伝え、何か改善する方法はないかについて、両者でよく話し合うことが大切です。
- 日影による影響を軽減する方法としては、建物の高さを低く抑える、建物の配置を南側に寄せること等のほか、建物の東西方向の幅を狭くする、屋根形状又は外壁やバルコニー形状の工夫によっても改善されることがあります。
- 建物の階数を減らすことは、事業の採算性に大きく影響するため、事業者は近隣住民等からの要望を受け入れられないことがあります。
- また、建物の階数を減らすと、事業者は床面積を確保しようとするため、各階の床面積が大きくなり、建物の幅が広くなり、かえって近隣の方への日影の影響が大きくなることもあります。
- 日照阻害については、近隣住民のそれぞれの住宅の位置によっても影響が変わりますので、事前に近隣住民等の皆様で話し合い、意見を整理することが必要です。
建物の階数・高さ(日照の確保)
建物の圧迫感について
- 建物の圧迫感は、隣接して高層の建物が建築された場合に、感情面の問題として生じることがあります。
- 建築基準法には、建物の外壁を隣地境界より一定の距離を離すというような規定はありません。
- また、建築基準法では、防火地域又は準防火地域においては、外壁が耐火構造の建物は、隣地境界線に接して建築することができるとされています(建築基準法第65条)。
- この建築基準法の規定の適用が無い場合については、民法で、建物を築造するには、境界線から50センチメートル以上の距離を保たなければならないと規定されています(民法第234条第1項)。ただし、これと異なる慣習がある場合は、その慣習に従います(民法第236条)。
- 隣に建つ建物により圧迫感を感じるようであれば、建物の配置や平面形状の工夫により圧迫感を少しでも和らげる方法がないか、少しでも歩み寄れる事項がないかを近隣住民等側と建築主側との話合いの中から見つけることが考えられます。
建物の圧迫感(建物の配置の変更)
プライバシーの侵害について
- お互いのプライバシーを適度に保ちながら快適な生活を営むためには、当事者同士で話し合うことが必要です。その際には、状況に応じて建築主側だけでなく、お互いに配慮することが大切です。話合いにより建築計画に工夫を求めるほか、近隣住民等が自分の住宅においても室内にカーテンやブラインドの設置をする等、双方が譲り合う必要があります。
- 民法では、境界線から1メートル未満に他人の宅地を見通すことができる窓又は縁側(ベランダを含む。)を設ける者は、目隠しを付けなければならないと規定されています(民法第235条第1項)。
- ただし、これと異なる慣習(地域の住民が自主的に守っている決まり)がある場合は、その慣習が優先します(民法第236条)。
- また、民法では、この境界線から1メートルの距離は、窓又は縁側(ベランダを含む。)の最も隣地に近い地点から、垂直線によって境界線に至るまでを測定して算出すると規定されています(民法第235条第2項)。
- したがって、慣習がある場合はその慣習に基づいて、慣習が無い場合は民法の規定に基づいて、建築主側に目隠しの設置を求めることが考えられます。
- 慣習や民法の規定に基づいて目隠しの設置を求めることができない場合(慣習が無く、かつ、民法に規定がない1m以上離れた窓等である場合)は、当事者間での話合いにより解決することが必要となります。
<対策例>
- 建築する建物の開放廊下、屋外階段等に目隠しパネルを設置する。
(補足) ただし、建築基準法、消防法等により設置できないケ-スもあります。
(補足) 南側の窓に目隠しを設置すると部屋が暗くなるため要望には応じられないことが一般的です。
- 建物の開口部(窓等)を無くしたり、小さくしたりする。
(補足) ただし、建築基準法上の採光規制等により対応できないケ-スもあります。
- 窓ガラスを半透明なものにする。
- 建築する敷地内に植栽をする。
(補足) ただし、避難経路の確保等のために対応できないケ-スもあります。
- 近隣住民等側の建物に目隠し対策(室内にカーテンやブラインドの設置をする等)をする。
- 費用を折半して建物と建物との間の空地に塀、フェンス、垣根等を設置する。
プライバシーの保護
電波障害(テレビ電波の受信障害)について
- 電波障害(テレビ電波の受信障害)とは、高層建築物の建築等によってテレビの電波が遮られたり、反射されたりして、テレビの映りが悪くなる症状をいいます。
- マンション等の高層建築物の建築に伴いテレビ電波の受信障害(電波障害)が発生することがありますが、電波障害については、法律の定めはありません。
- 対策などについては、総務省 テレビジョン放送受信障害の見分け方(外部サイトへリンク)をご覧下さい。
- 一般的には、高層建築物の建築によりテレビ電波障害が生じる場合は、原因者である建築主の責任と負担でその対策を講じることになりますので、建築主側との話合いで解決することになります。
- 電波障害が発生するか否かは計画段階である程度予測できますので、少しでも不安がある場合は、建築主側に電波障害の予測調査の実施を求めることが考えられます。その予測調査の結果、電波障害が発生すると予測された場合は、建築後に電波障害が発生した場合の対策について、近隣住民等側と建築主側とで話し合っておくことが大切です。
建築工事による騒音・振動について
- 建築工事に伴う騒音・振動に関する法的な規制として、特定の作業(杭打機、さく岩機、空気圧縮機を使用する作業やコンクリートプラント又はアスファルトプラントを設けて行う作業等)による工事上の騒音・振動については、騒音規制法、振動規制法、柏市環境保全条例による規制がありますが、その他の作業については、規制はありません。
- このため、工事の規模や周辺の状況等により騒音・振動の影響が生じると考えられる場合は、建築主側と近隣住民等側との間で、作業方法や作業時間、工事車両の通行経路等についてよく話し合い、合意した内容を書面にした建築工事協定書を交わすことが有効です。
- また、工事の規模や施工方法によっては、工事の前に家屋調査を実施し、万一建物に被害が生じた場合に、建築工事に伴った被害かどうかについて争いが起きないようにしましょう。
- 後日損害が生じた場合の原因の特定で争いとならないように、建築主に要望し、建築工事の着手前に双方立会いの下、家屋内外の必要部分について写真撮影等の家屋調査をしておく方法があります。また、工事によって家屋等に損害が生じた場合の賠償額の負担等に関し、あらかじめ建築主との間で工事協定を書面により締結する方法もあります。
工事協定書(例)(PDF:136KB) (補足) この工事協定書(例)は、標準的なものという意味ではありません。当事者で話し合い、話合いの結果に基づいて適切なものを作成してください。
工事による騒音・振動への対策としては、次のようなことが考えられます。
<対策例>
- 工程表の掲示や配付をする。
- 工事車両の待機場所を確保する。
- 警備員を配置し、車両や通行人を誘導する。
- 低騒音型・低振動型の機械を使用する。事前の家屋調査(写真等による記録)の実施及び万一被害が発生したときの対応方法の取決め
- 防音壁・防塵ネットを設置する。
- ほこりやごみの飛散防止のために散水や作業後の清掃を行う。
- 被害対策について
騒音・振動
作業時間
ワンルームマンションの管理について
- ワンルームマンションが建築される場合、主として単身者の入居を前提としているため、ごみ置場の管理、深夜の騒音、路上駐車等の迷惑行為について、近隣住民等の方々が不安に感じることがあります。
- このような不安を解消するためには、建築主に対して完成後の管理方法や管理者について説明を求め、適切な管理ができることを確認することが考えられます。
ごみ置場の位置・管理
入居者・来客者の路上駐車
建物の設備について
- 機械室、ポンプ室、機械式駐車場等、建物の設備から発生する騒音・振動やごみ置場の位置について、近隣住民等の方々が対策や変更を求めることがあります。
- これらの建物の設備の影響については、近隣住民等のそれぞれの住宅の位置によっても影響が変わりますので、近隣住民等の方々としては、事前に近隣住民等の皆様で話し合い、意見を整理することが必要です。
- ごみの収集の関係上、ごみ置場の位置を変更することが困難な場合があります。
- 対策例としては、次のようなことが考えられます。
<対策例>
- 設備を壁で囲う。
- 低騒音型の機械装置にする。
- 設置場所を離す。
- 近隣住民等側の建物等に防音対策をする。
階段・廊下の防音対策
受水槽ポンプの騒音対策
建築物からの騒音・臭気対策
駐車場の位置
機械式駐車場
風害について
- 高層の建物の周囲に発生する強風や乱気流(いわゆるビル風)によって、近隣の建物が振動したり破損したりして被害が生じることがあり、これは風害と呼ばれています。
- 風害を規制する法律はありません。建築をする際に事前に風害の調査をしなければならないという法的な強制力もありません。
- 建築物の建築によって風の向きが変化したり風の強さが増す等の影響は、その地域の地形や周辺建物の配置、形状、規模等の状況等によって複雑に左右されるため、影響の程度や具体的な被害が発生するかどうかを予測することは大変困難です。
- このため、風害が心配される場合は、計画建物の周囲に防風効果のある樹木を植えたり、将来ビル風が原因で近隣の建物に具体的被害が生じた場合の補償について協定を締結するという対応が一般的です。
- 実際の風の動きは風向や土地の形状等の様々な要因が複雑に作用して変化し、正確な想定が難しいことから、実際に風害が発生した場合には、何が原因かをよく調べ、当事者双方が誠意を持って話し合うことが大切です。
眺望の阻害について
- 眺望は、生活上不可欠とはいい難く、偶然性もあり、日照や風害等のように実際の被害が見えず、眺望の感じ方にも個人差があることから、保護の程度は日照等と比べて低くなることはやむを得ないと考えられています。
- 建築基準法には眺望権に関する規定はありません。
- 新たな建物の建築によって今まで見ることのできた景色が見られなくなったからといって、直ちにそれが眺望利益の侵害に当たるわけではありません。
- 景勝地等のように、眺望を阻害される側にとってその眺望が特別の価値を持つと社会通念上認められる場合に限り、眺望利益が法的に保護されるという考え方が一般的です。
- 眺望の阻害については、景勝地等のようにその眺望が特別の価値を持つと裁判で認められた例外的なケースのほか、眺望の阻害を理由として工事の差止めを認めた裁判例はほとんどありません。また、建築主側にもその土地を有効に利用する権利があることから、一般的には、市街地では、住居からの眺望の確保を理由として、法的に保護を求めることは無理があると考えられています。
- 以上のようなことから、眺望が得られなくなることに不満がある近隣住民等側としては、建物の配置や形状の工夫等により少しでも影響を抑える方法がないか、建築主側とよく話し合ってみることが考えられます。