更新日令和3(2021)年2月26日

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狐の嫁入り

もんは、きょうも田んぼひとつはさんだ小高い丘のふもとを見ています。

「おっかあ。ほら。ほら。」

もんの指さす方には、夕ごはんの支度をしているのでしょうか。あっちの家からも、こっちの家からもけむりの出ているのが見えます。

もんは五歳。おっかあに連れられて毎日田や畑で暮らしているのです。そんなもんの楽しみは、毎日ふもとの家々から出るけむりを見ることだったのです。見ていると、もんはとても安心できるのです。

そんなある日、いつものように小高い丘を見ていると、小さなともしびが三つ四つ見えました。よくよく見ると十も二十もありました。少し赤っぽく、とてもきれいでした。
狐の嫁入りの絵しばらくすると、ともしびは、何やら動いているようです。あっちに行ったり、こっちに来たりしてもんの心はうきうきしてきました。

「おっかあ。ほら、ほら。」

「うん。また、けむかい。」

「うーんほら、ほら。」

おっかあは、夕はんの支度をやめて、もんの方に来ました。

「ああ、もん。きれいだ。きれいだ。今は六月だもの、田んぼの稲っこも喜んでんべな。」

もんには、なんのことだか全然わかりません。ただきれいだと言うところだけわかるのです。そんなもんを、おっかあはひざにだいて話してくれるのです。

「もん。あれはな。狐のしゅうげん〈結婚式〉だ。おめでてえことなんだよ。狐たちが、うんまいごっそういっぺ作って、うれしいんだべな。ほれ、ほれ、ちゃんと二列になって動き出したんべ。あれはな、よめっこがむこのところへ今から行くんだ。あのよめっこもきれいなんだ。」

「ふーん。おっかあ。そんでー。」

「きれいなよめっこの着物が、よごれちゃなんねー。めでてえことに雨がふっちゃなんねえって、狐らは、雨がふる前の日にしゅうげんをやってしまうんだ。なあ、もん。あしたは雨だよ。雨ふっと田んぼの稲っこもどんどんでっかくなって、いっぺ米ができるんだ。そしたら、もんにもきれいな着物でも買ってやっかんな。」

「おっかあ。狐のよめっこの着物がいいな。赤くてきれえだもの」

もんは、おっかあのひざの上ですやすやねむってしまいました。
そして、時々顔をほころばせました。きっと何かいい夢でも見ているのでしょう。
次の日は、雨が降りました。田んぼには水が広がり、稲たちは、皆すじをぴーんとのばし、元気に話し合っているようです。
やがて、大きくなったもんは、おっかあと同じ野良仕事をするようになると、ちょいちょい小高い丘の方を見るのでした。

「ああ、きょうは狐の嫁どりがねえ。明日は晴れだな。それじゃ明日は、いもほりでもすっか。」

「ああ、きょうは狐の嫁入りがあった。明日は雨だな。まてや納屋(なや)で縄ないでもすっか。」

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